業界の知人から、ある歯科医院のことで相談にのってくれないか、との電話があった。その歯科医院は、あるウェブ制作とCMSのサービスを契約し、リース料で月額約30,000円で7年間の契約を結んでいた。総計単純計算で2,520,000円。そこに分割手数料がはいり、2,800,000円を超えていた。
このサービスはスマホとPCで表示を切り替えられるCMSとA/Bテストツールとリコメンデーションエンジンがセットであり、このシステムの費用が大半で、制作費は300,000円程度。このサイトを更新するときには通常のウェブ制作会社と変わらない(か一部高額な)メンテナンス費用も別途かかる方法になっていた。
業界の常識でいえば、このようなシステムにほとんどコストがかからない。スマホとPCの切り替えやリコメンデーションはWord Pressで実現できるし、A/BテストはGoogle Optimizationをつかえば0円でも実現できる。この業界の知人としては知り合いの歯科医院が可愛そうで何か解約するとか、返金するなどの手がないか?との相談だった。
残念ながらこのようなウェブサイトやSEOを割賦やリース契約を結んだ場合、返金は難しい。契約を結んで割賦やリース契約をした場合は、その債権はこのシステムや制作会社ではなく、割賦やリース契約をしている金融会社に移っている。このサービスを解約したとしても、金融会社の債権は消えない。すでに代金分をシステムや制作会社に金融会社が前払いしている以上、彼らはその債権を回収することができる。当然このような取引では企業同士だからクーリングオフも効かないし、解約しても代金は戻らないことが契約にも明記されていて、契約時に確認もとっている。
わたしたちウェブ業界は誰もが、このようなリース契約や割賦販売が費用対効果の悪いホームページ制作の依頼方法であることは知っている。しかしそれを名指しで指摘しようものなら、名誉毀損、損害賠償になることも知っている。
なぜならソフトウェアやシステムについて、数百万円のリースはごく普通にあるし、わたしたちが利用しているサービスだってサブスクリプションといって月額支払のサービスがたくさんあるからだ。そしてリース契約や割賦販売のウェブサイト制作会社でもその費用対効果が高いサービスがないとは断言できない。
以前同じような相談をうけたときも、複数の方からうかつに第三者のサービスを批判するものでない、それは大変なトラブルを引き起こすことになるとアドバイスをいただいた。彼らはそのことも計算済みで法的な対策を完璧にほどこしている。根拠がないことで他社のサービスを決めつけて批判するべきではないだろう。
中小企業の社長だった父の背中を見て、中小企業の販売促進を元気にしたいと思い起業した。だからこのような事例を知るたびに悲しくなる。また、私達業界の評判が悪化する一因でもあり、私の地元の地方では私達のようなウェブ業界を、油断ならない業界だと警戒されることも少なくない。
前日ペライチさんと一緒にセミナーをした。彼等は無料あるいは月額1,000円前後で中小企業が自分で簡単にホームページをつくれる。SEOの効果も高い。
登壇した上田さんは北陸の地元の両親の事業をペライチで宣伝した結果、事業の売上が伸びた。その熱が高じてペライチに入社したのだそうだ。
そんな中小企業にとって天の助けみたいなソリューションだってある。ウェブは中小企業にとって事業を成功につなげるチャンスを提供すると、私は信じて疑っていない。
できることは、私達がちゃんと歯科医院のようにITに詳しくない企業だって、一般企業に役だつウェブサイトを作りたかったら、もっといいサービスがあることを伝えること。
そしてこのような形でウェブサイトを作ってしまった企業が、問題を感情的ではなく事実で伝えること、それを私達ウェブ業界の人たちが支援することだと思う。
でもリスクは多く、益は少ない。あることは訴訟リスクであり、そのクライアントを救える可能性も低い。
私達はこのようにして社会や業界の矛盾を受け入れていかなければいけないのだろうか。
私達の先輩方、両親や祖父母もそれぞれの業界でそういう矛盾を受入れていったのだろうか。
それでいいのだろうか。