「おえん」はおえんかった

「おえん」はおえんかった

約3年ぐらい岡山県に住んだ。結局今のところ生まれた福島県と高校から住んでいる東京の次に長い期間いたことになる。

新卒で入社後、研修で行くまで岡山には無縁だった。広島と岡山がどっちか怪しいぐらい無知だった。福島に比べると東京からずっと離れているから、同じかそれ以上の田舎なのかと思ってた。

しかし岡山も倉敷も私の知ってる田舎とは程遠い景色だった。岡山駅前はビル街で、倉敷にはチボリ公園があった。こんな遊園地やらビル街が真横にあるなんて、すごいすごい田舎もあったものだと思った。

別に駅前ばかりが都会なわけではなく、街の風景も人々も豊かだった。

瀬戸内工業地帯。この辺りは工場も多く、工場で働く人も多かった。人々の暮らしは豊かだし、競艇場や遊園地などの施設も多かった。田舎と言って全く違うのか、と知る機会にはなった。あえて困ることと言ったら書店だった。私が岡山を去る頃にはイオンモールに大きな書店ができはじめたのだが、当時は大きな専門書が置いてある書店がなかったぐらいだった。

最初岡山弁には苦労した。営業に行くと、誰もが怒ってるように聞こえる。

「そげーなこというてもおえんじゃろうがー」

とか思いつく岡山弁は怒ってる文章ばかりだ。実際怒られてばかりだったかも知れないけど。

しわい、なんて言葉も知った。吝いと書くみたいで後で司馬遼太郎の本で出てきて一般形容詞だと知ったが、標準語にならない。ゴムのように噛み切りにくい肉のようなものをしわい、と表現する。標準語だと堅いになってしまうが、ちょっと違うことはわかるだろう。そして転じて「あのおっさんはしうぇーのー」問いように食えない人をしわい、ともいう。

そして一番困ったのは「おえん」という言葉だった。

「あのひとはおえんのー」

といように使うのだが、このおえんの意図を汲むのには苦労した。基本は「しょうがないなー」なのだがその先がない。だから意図を文脈で判断しなければいけない。
いろんなことを表現するのに使うのだが、YesだったりNoだったりMaybeだったりPerhapsだったりする。

よく苦手な工事課長が使ってて、難儀した。99%「お前はどうしようもないダメなやつだなー」だったと思うけど。

そのうち方言も覚えて辿々しくも使ってた。大阪弁と違って、片言岡山弁でもイラッとされていなかったし、今となっては好きな方言だ。